松阪商工会議所 豪商スピリット宣言

Go-Show Spirit Manifesto

 松阪は、昔から商業の盛んな地域で、櫛田川の流域の商家は中世にはすでに全国に商業活動を展開していました。 400年くらい前に蒲生氏郷が松坂の城下町を開くと、ますます商業が盛んになり多数の商家が江戸店をもつようになって、「松阪商人」の名は全国に知られるようになりました。 なかには、莫大な財産を築いて「豪商」と呼ばれるような商人も現われましたが、豪商たちは、江戸だけでなく大阪や京都にも店を出し、買い手にも喜ばれ、社会の役にも立つようにさまざまな工夫を重ねて、全国的に活躍したのです。
 松阪商工会議所は、このような歴史をもった松阪での企業活動に誇りをもつとともに、現代の企業活動に必要な精神を豪商から学んで、事業規模はともかく、その企業家精神においては、豪商に負けないような企業活動を展開するための一助を果たしたいと願っています。
 豪商たちの活動に現われた精神は、広く松阪の自由闊達で革新的な文化・風土と長い歴史のなかで共有されてきた精神であり、それが、豪商たちを育てたのです。そのような精神を、「豪商スピリット(Go-Show Spirit)」と呼ぶことにします。
 私たち松阪商工会議所が現代の企業活動に必要な「豪商スピリット」だと考えるのは次のようなことであり、「豪商スピリット」をもった企業活動が多くの企業で行われることを目指し、できる限りの支援をしていくことをここに宣言します。

1 社会からの信頼を得ることを何よりも大切にする精神

 豪商スピリットの企業活動の一番の根底にあるのは、社会からの信頼です。
 近江商人の経営理念は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という言葉で表わされていますが、松阪の商人たちも、買い手にも喜ばれ、社会の役にも立つようにさまざまな工夫を重ねて、社会の信頼を得て成功しました。
 社会から信頼され顧客から愛されなければ、人に喜ばれることも、社会に貢献することもできませんし、企業活動が長続きすることもないのだと、私たちは考えています。

2 企業活動を通して社会に貢献する精神

 企業の利潤のもとは、人びとに便益を与えることから生じています。 豪商たちが松阪もめんを江戸に紹介して喜ばれたように、人びとの暮らしを支え、人びとを楽しませ、それが儲けにつながるような、そんな企業活動こそが望まれています。
 かつては、「売れるモノ」をつくって売れば社会に貢献できましたが、現代は、売れたモノが時には環境を汚染し、人びとの暮らしを脅かすような時代です。企業活動から生じる社会への影響を常に意識し、商品を通じて時代にふさわしい生き方を提案していくなどより良き社会の実現のために貢献する企業活動が望まれています。
 さらには、現代の企業活動は、国際経済を通じて、あるいは環境問題などを通じて、全世界と地球規模でつながっています。 つまり、「社会」とは、まず地域社会でありますが、国際社会、地球社会を常に意識した企業活動が望まれています。

3 自由で革新的な発想とそれを実現する強い精神

 豪商たちは、三井の「現金掛値なし」の新商法に代表されるように、自由な発想で新しいアイデアをとり入れる知恵をもち、それを実現するための工夫をこらし、それを思い切って実行に移していく革新的なチャレンジ精神をもっていました。
また、知恵と工夫を具体的な仕組みにし、体系化していくというシステム的な発想をもっていました。

4 多様な人や考え方との繋がりを大事にする精神

 豪商たちは、茶の湯などの文化活動、古典講釈などの学問の活動を通して、幅広く交流していました。 それがおそらくはさまざまな情報交換につながり、商売のヒントにもなっていたのでしょう。
 現代の企業家も、異業種との交流だけでなく、従業員との対話から得られる情報など、人と人のつながりから得られる生きた情報が不可欠です。 むしろ、情報を求めるというよりは、人の多様性を信頼し、多様な人のつながりをつくり出して、そこから無形の資源を得るというような経営が望まれます。

5 働く人を大事にする精神

 お客様に喜んでいただけなければ企業活動は成り立ちませんが、直接サービスに従事する職員を大切にしなければ、お客様に喜んでいただくことはできません。
 豪商たちは、奉公人をたいへん大切にしたと伝えられていますが、今日、人びとの多くは、企業で働くことによって生活の資を得ていますから、企業で働くことが人に喜びや生き甲斐を与えるような企業活動でなければ、人を幸せにはできません。 働くことに幸せを感じるような従業員こそが、お客様に喜んでいただけるようなサービスを提供できるのです。
 人を大事にするとは、やりがいのある仕事を提供し、働くことの喜びを通して生きる喜びを感じさせるような企業活動であり、人の働きを尊重しなかったり単なるコストと捉えたりすることのない経営が望まれます。

6 変化に対応し生き残りを図っていく精神

 せっかく社会の信頼を得ることができても、それが長続きしないのであれば、かえってお客様や、従業員、さらには社会にも迷惑をかけることになります。
 従って、大儲けする必要はありませんが、企業活動から確実に利潤をあげて、持続可能な経営を行わなければなりません。
 最近のように変化の激しい事業環境の中で、その変化に的確に対応し、又不測の事態にもできる限り備えた持続可能な事業計画をもった企業でなければ「豪商スピリット」とは呼べないと、私たちは考えます。

 私たち松阪商工会議所は、「豪商のまち」松阪で、豪商スピリットをもった企業活動が盛んになること、そしてそれが全国に広がっていくことを心から願っています。